もしもの備えが食育に:非常食を通して子どもと学ぶ「いのち」と環境の大切さ
はじめに:非常食・備蓄が持つ食育と環境の可能性
予期せぬ災害が発生した際に、家族が安心して過ごすために非常食や備蓄品を準備することは、非常に重要です。しかし、これらの備えは単に災害時を乗り切るためだけではなく、普段の生活における食育や環境について子どもと共に深く考える貴重な機会となり得ます。
忙しい日々の生活の中で、非常食や備蓄品の準備は後回しになりがちかもしれません。また、「いつ使うかわからないものを置いておくのは場所も取るし、無駄になるのでは」と感じる方もいらっしゃるでしょう。しかし、非常食・備蓄品を上手に活用することは、食品ロスを減らし、持続可能な食生活を実践する第一歩にもつながります。
本記事では、非常食や備蓄品を通して、子どもに「いのち」を支える食べ物の大切さや、食べ物を取り巻く環境についてどのように伝えられるか、そして忙しいご家庭でも無理なく続けられる備蓄方法である「ローリングストック」を活用した食育と環境への配慮についてご紹介します。
非常食が教える「いのち」と食べ物の大切さ
災害が発生し、普段通りの食料供給が難しくなった状況を想像してみてください。そのような時、手元にある食べ物が、自分たちの命を支えるかけがえのない存在であることをより強く感じることでしょう。
非常食は、まさに「いのちを守る食べ物」です。普段、スーパーに行けばいつでも手に入る食べ物が、実は多くの人々の手によって、自然の恵みを受けて作られていること、そしてそれが当たり前ではない状況もあることを、非常食を通して子どもに伝えることができます。
例えば、子ども向けの絵本や簡単な言葉を使って、「このご飯はね、もし大きな地震が来て、お店がお休みになっちゃった時でも、みんながお腹いっぱいになれるように用意してあるんだよ」「食べ物があるって、とってもありがたいことなんだよ」といった話をしてみることも良いでしょう。普段何気なく食べているものへの感謝の気持ちや、「いのち」を支える食べ物の尊さを、非常時という特別な状況と結びつけて伝えることで、子どもの心に深く響く可能性があります。
非常食・備蓄品と食品ロス、環境への配慮
非常食や備蓄品は、長期間保存できるものが多く選ばれます。しかし、賞味期限や消費期限が設定されており、期限が切れてしまうと食べられなくなり、食品ロスにつながる可能性があります。日本国内では、まだ食べられる食品が大量に捨てられており、これは環境負荷の一因となっています。
非常食・備蓄品を準備することは、この食品ロス問題について家庭で考える良い機会となります。備蓄品が無駄にならないように管理すること自体が、食品を大切にする意識を育むことにつながるのです。
ローリングストックで実践する食育と環境配慮
食品ロスを防ぎながら無理なく備蓄を続ける方法として、「ローリングストック」が推奨されています。これは、普段から食べているものを少し多めに買い置きし、古いものから日常的に消費しながら、消費した分を補充していく備蓄方法です。
ローリングストックのメリットは、以下の通りです。
- 食品ロスを防ぐ: 常に新しいものと入れ替わるため、賞味期限切れを起こしにくい構造です。
- 無理なく続けられる: 普段の買い物の中で自然に備蓄が進みます。特別な「非常食」だけでなく、日常的に食べ慣れているものが中心になります。
- 災害時も安心: 食べ慣れたものがあることで、特に子どもの安心感につながります。
このローリングストックは、まさに食育と環境配慮を同時に実践できる方法です。
- 食育への活用:
- 子どもと一緒に備蓄品のリストを確認する際に、「これはいつまでに食べようね」「古い方から食べようね」と声をかけることで、期限を意識すること、食品を大切にすることの習慣が身につきます。
- 日常的に食べるものを備蓄することで、「普段食べているものが、もしもの時に自分たちを助けてくれるんだ」という実感を持つことができます。
- 備蓄品を消費する際に、「これは〇〇さんが作ったお米だよ」「このレトルトカレーには、〇〇の野菜が入っているんだよ」など、食べ物の背景に触れる会話につなげることも可能です。
- 環境への配慮:
- 食品ロスを減らすことは、資源の無駄遣いをなくし、焼却時の温室効果ガス発生を抑制するなど、環境負荷の低減に直接つながります。
- ローリングストックの過程で、どのような食品を、どれくらいの頻度で消費しているかが見える化され、より計画的な買い物につながる可能性があります。
ローリングストックを取り入れる際は、まずはお米や乾麺、レトルト食品、缶詰など、普段から家庭で消費しているもので、比較的長期保存が可能なものから始めるのが良いでしょう。子どもが好きなものや、アレルギー対応が必要な場合は、それらを優先的にリストアップし、備蓄に含めることも大切です。
忙しい毎日で取り組むヒント
ローリングストックを始めるにあたり、完璧なリストや大量の備蓄を一度に準備する必要はありません。まずは普段の買い物の際に、お米をいつもより1キロ多めに買う、缶詰を1つ買い足すなど、小さな一歩から始めてみてください。
買い物リストを作る際に、備蓄品として補充が必要なものを意識的に加えることや、冷蔵庫やパントリーの整理をする際に、備蓄品の消費期限を確認する習慣をつけることも有効です。子どもに「賞味期限が近いものを一緒に探してくれる?」と声をかけ、ゲーム感覚で手伝ってもらうのも良いでしょう。
まとめ:備えは「いのち」を学び、環境を考えるきっかけ
非常食や備蓄品の準備は、家族の安全を守るための大切な行動であると同時に、子どもに食べ物の大切さや、それがどのように私たちの「いのち」を支えているかを伝える絶好の食育機会です。また、ローリングストックなどの工夫を取り入れることで、日々の暮らしの中で無理なく食品ロスを減らし、環境への配慮を実践することにもつながります。
完璧な備えを目指す必要はありません。まずは、今自宅にある食料品を見直すことから始めてみましょう。そして、「もしも」を考えることが、「いつも」の食べ物への感謝や、環境への意識を高めるきっかけとなることを、子どもと共に学び、実践していただければ幸いです。